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終幕彼女

NOVEL

  • 11話アキバ名物アイドルライブ

    「やー順調順調! 優愛っち本当に筋がいいっすね! もう自分たちと遜色ないんじゃないっすか?」

    「そ、そんなっ、まだまだです! まだ2人についていくのが精一杯で……」

    その後も私たちは秋葉原での保全活動を続けました。

    雛乃ちゃんと咲ちゃんとで、霊抜れいばつを低減するための機械を取り付けていっているものの、エリア全体を囲うように取り付けないと完全に効果がないため、時折下級の虚霊オーネが現れます。

    そのたび、制服コスプレイヤーのゲリラパフォーマンスを装って、討伐を続けます。

    「そんなことないっす! 元アイドルだなんて信じられないっす!」

    「アイドル……そうですね……」

    「まだあんまり思い出せないっすか?」

    「はい……」

    「心配はいらん。記憶はすぐに戻る」

    「え?」

    「そうっすね! 先輩と仲良くなれば!」

    「そうなんですか??」

    雛乃ちゃんと咲ちゃんは笑顔でうんと頷きます。

    「記憶も霊在子ザインとともに戻るっすから! 先輩がいればだいたい何とかなるっす!」

    「どうも便利グッズです」

    プレイヤーさんも、便利グッズとしての自覚が出てきたようで、即座に反応します。

    「へへへ、ついに便利グッズとして生きる覚悟を決めたっすか!」

    「ふふっ」

    笑いつつ、こうして気分を和らげてくれることも含めて、やっぱり彼は私たちにとって必要不可欠なんだと実感します。

    すると、咲ちゃんが突然手を上げて提案します。

    「はいはーいっ! じゃあせっかくなんでライブ見に行くっすか!」

    「ライブ? 急にどうしてですか?」

    「アキバ名物アイドルライブ! 見たら優愛っちの記憶も戻るかもっす!」

    「確かに過去の自分と馴染みのものを見ると記憶は戻りやすい。ただ、今は任務の最中じゃ。少し寄るくらいならよいが、ライブを見るとなると……」

    「ふふーん、言われると思ったっす! でも最後に残った装置の取り付け場所が、そのライブハウスのあたりなんでちょうどいいんすよ!」

    「ふむ、ならば任務のついでで行ってもよいか」

    「うんうん! だから行きましょーよー! ねえ、優愛っち! 先輩!」

    「えっと……どうしましょう?」

    私は、プレイヤーさんに相談の視線を送ります。

    実のところ、私もこの世界のアイドルというものに興味がありました。

    一体どんなステージをするのでしょうか。

    かわいい女の子が、きれいな衣装を着て、歌って踊る……一般的なアイドルのイメージは持っているつもりです。

    アイドルはみんなに夢を見せるもの。

    この世界のアイドルはどんな夢を見せてくれるのでしょう。

    「……行ってみようか?」

    その返事を聞いて、私は顔を輝かせます。

    「はいっ!」

    胸に抱いたしゅぷーちゃんも、こくりと頷きました。

    「いいと思うですの」

    「じゃあ……行きましょうか!」

    咲ちゃんも雛乃ちゃんもにっこり笑って、ここから近いというライブハウスへ行くことが決まりました。

     

     

    *****

     

     

    そのライブハウスは、雑居ビルの地下1階にあるようでした。

    雛乃ちゃんが、ビルの入り口に貼り出されたライブのスケジュール表を見て言いました。

    「これを見ると、ちょうど10分後に公演らしい。よいタイミングじゃ」

    「本当ですね……って、あれ?」

    私も隣に並んでそれを見ていて、気づきました。

    「これ、ほぼ毎日ライブをしているんですね?」

    「そうっすね。日によって出るアイドルが変わるっぽくて。色んなアイドルグループが代わる代わるステージに立つみたいっす」

    「へぇ……」

    なるほど、グループが複数いるので、毎日ライブができるようです。

    私は腕組みをして感心します。

    ですが……。

    「それは大変ですね」

    「大変? どうしてっすか?」

    「いえ、毎日同じ場所でアイドルがライブなんてしていたら、すぐに見つかってしまうので」

    「え? 見つかる??」

    首を傾げた咲ちゃんと同様、雛乃ちゃんも不思議そうな顔で私を見ています。

    一体どうしたのでしょう?

    プレイヤーさんとしゅぷーちゃんだけは、何か気づいたような顔をしています。

    プレイヤーさんが言いました。

    「この世界のアイドルと、君がいた世界のアイドルは少し違うんだ」

    「え? そうなんですか?」

    「この世界のアイドルは隠れる必要はなくて。むしろどんどん人目に触れていいんだ」

    「え……? そんなことをしたら危険じゃ……」

    その時でした。

    階段を下った先、地下のライブハウスからけたたましい声が聞こえました。

    たくさんの人が発した、ただならぬ声。

    「これって……」

    「……歓声……ではないようじゃ」

    「悲鳴だ!」

    プレイヤーさんがいち早く階段を駆け下りていき、私たちはすぐにその後を追いました。

     

     

    *****

     

     

    プレイヤーさん、雛乃ちゃん、咲ちゃん、しゅぷーちゃんを抱いた私の順で階段を駆け下ります。

    階段の幅は狭く、人が2人ぎりぎりすれ違える程度でした。

    私が階段を降りきる直前、ライブの観客らしき若い男性が必死の形相で階段を駆け上がろうとしたので、肩がぶつかります。

    「いたっ……」

    「優愛、大丈夫ですの!?」

    「はい、大丈夫で――」

    そう言いかけ、ライブハウスの待合いホールの様子を見た私は、言葉を失いました。

    そこは、悲鳴と怒号のるつぼでした。

    たくさんの人が大声を上げながら、入り乱れて、我先に出口へ殺到しています。

    「落ち着け! あわてず順番に逃げよ!」

    「ちょっ……押し合ったらダメっすよ!」

    雛乃ちゃんと咲ちゃんが大声を張り上げて、場の沈静化と脱出路の確保に回ります。

    だけど、現場は混乱していて、その声もかき消されてしまいます。

    多くの男性客の中に女性客もいて、力のない彼女たちの中には人の波に押されて、床に倒れこんでいる人もいました。

    「大丈夫ですか!? 立てますか!?」

    プレイヤーさんは、倒れて怪我をしている人を見つけて、声をかけています。

    ライブハウスは、教室1つ分より少し広いくらいの待合いホールと、古い映画館のような観音扉に隔てられたライブスペースとがあり、騒ぎの大元はライブスペースの方にあるようでした。

    ライブスペースから次々と、動転した人たちが流れ出してきます。

    待合いホールにいた人たちは、最初事情がわからなかったようで、ライブスペースから飛び出して来た人たちとぶつかったりして、混乱がさらに重なります。

    地上へ出る階段への間口は狭く、そのせいで脱出を急ぐ人たちが団子になり、また諍いが起こっています。

    「すみません……! 通してください!」

    私は、その混乱をうまくすり抜け、待合いホールにたどりつきます。

    「優愛! ライブスペースの状況を確認できるか!」

    「は、はい!」

    雛乃ちゃんたちは、完全に人のもみ合いに飲まれてしまって動けません。

    運よく人の空いた場所に出られた私は、雛乃ちゃんの要請に応え、人をかきわけ、開いた観音扉からライブスペースを覗き込みます。

    「……!」

    そこにいたのは虚霊の大群でした。

    大小入り乱れた虚霊が、逃げまどう観客を襲っていました。

    「っ……!!」

    突然、頭痛がしました。

    そして直後、私の脳裏に過去の記憶がフラッシュバックします。

    「……いや……!」

    私は、過去、これと似たような光景を目にしたことがあります。

    夕暮れに染まるステージで、未知の怪物が人々を襲う光景。

    「……やだ……やだっ……!!」

    恐怖で足が竦みます。

    「邪魔だ!」

    「……きゃっ!」

    立ち止まった私は、逃げる人たちに押しのけられ、冷たいコンクリートの床に尻餅をつきます。

    「優愛? 平気ですの!?」

    もはや動いているのを見られることを気にしていないしゅぷーちゃんが、小さな体で私を助け起こそうとしてくれます。

    「は、はい……」

    いけません。

    こんな非常時にぼーっとしていられません。

    プレイヤーさんや雛乃ちゃんたちも必死に動いています。

    しばらくたつと、ライブスペースにいた人たちのほとんどが外へ逃げ出し、空間に余裕が生まれます。

    避難誘導をしていた雛乃ちゃんたちも駆け戻ってきます。

    「……虚霊の巣ですの」

    ライブスペースの中を見たしゅぷーちゃんが言いました。

    言う通り、そこには数え切れない虚霊がいました。

    20体、いえ30体、まだ増え続けているようにも感じます。

    「でも、ここは毎日ライブをしているはずじゃ?」

    「隣に誰にも使われない会議室みたいなスペースがあったですの。おそらくそこが虚霊の巣ですの」

    しゅぷーちゃんは、霊抜を計測するカウンターを取り出して続けます。

    「霊抜が10メルトを超えてるですの……!」

    「じゅ、10mっすか!? それって……!」

    「過去最悪の数字じゃ。現世でそこまで侵された場所があったとはな」

     

    「キャァァァアアアア!!」

     

    「っ……!」

    その悲鳴を聞いて、私は顔を跳ね上げます。

    悲鳴の元は、ステージの上。

    そこにかわいらしい衣装を着て、へたり込んだ女の子がいました。

    恐怖に染まった表情で、わなわなと震えています。

    彼女の前にいたのは、中型の虚霊でした。

    「いけない!」

    私は弾かれたように走り出しました。

    このままでは彼女が襲われる。

    きっと彼女はここでライブをする予定だったアイドルです。

    さっき脳裏にフラッシュバックした光景が胸をざわつかせるけれど、目の前の危機が私を急がせました。

    「待て! 優愛!」

    「優愛っち!」

    私は、懐からマイクを取り出します。

    「プレイヤーさん!」

    「わかった!」

    おそらくプレイヤーさんが、霊在子を送ってくれたのでしょう。

    マイクがみるみる両刃の剣の形に変わります。

    そして、私の体にも霊在子を送ってくれたようで、力がみなぎるのわかります。

    「やぁぁあああああああっ!」

    私はその勢いのまま大きく跳躍し、女の子を襲おうとしていた虚霊を両断しました。

    虚霊がこちらに背を向けていたおかげで、うまく隙を突くことができました。

    「……大丈夫ですかっ?」

    黒いもやとなって消えてゆく虚霊を横目に見ながら、私は女の子に声をかけます。

    「あ……あり……がとう……」

    まだ震えは止まらないようで、うまく言葉が発せないようです。

    でも、体にはどこも怪我はないようです。

    私はほっと安堵しました。

    「早く逃げてください!」

    「自分が連れていくっす! こっちっすよ!」

    咲ちゃんが誘導を買って出てくれて、おぼつかない足取りの彼女を背負って、出口の方へ急ぎます。

    一方、雛乃ちゃんが私のそばへ来て、釘を刺します。

    「優愛、無事で済んだものの、考えなしの行動はよせ」

    「……はい、すみませんでした。プレイヤーさんも……ありがとうございました」

    「うん。次は気をつけて」

    私たちは、ステージ上に集まり、フロアでひしめく虚霊の群れを眺めます。

    40体、50体……やっぱり数が増え続けているようです。

    これだけの数を相手にできるでしょうか。

    戦える終幕彼女エンドロールは私を含めて3人だけ。

    3人で分担したとしても、1人でかなりの虚霊を相手にしなければなりません。

    攻略方法を考えていた私の目に、少し変わった見た目の虚霊が映りました。

    「あれ……何でしょう?」

    「む?」

    それは、完全な人型の虚霊でした。

    いや、虚霊かどうかもわかりません。

    普通、虚霊というのは、形は様々でも、黒い外皮に赤いラインの入った共通の姿をしています。

    ですが、私の目に留まったそれは、一般人の服装をしています。

    チェックのシャツに色あせたジーンズを履いた、男性のように見えました。

    「アァ……! アアァ…………!」

    それが映画によくあるゾンビのようによろよろとした足取りで、こちらに近づいてくるのです。

    肌は青黒く、目も虚ろで、正気を持っているようには見えません。

    だけど、私には、彼にどこか見覚えがありました。

    「余もあんなのは初めて見る。しゅぷーはどうじゃ?」

    「しゅぷーもあれは……ん? 学園長から通信ですの」

    ピピッ、ピピッという電子音が鳴ります。

    それに気づいたしゅぷーちゃんは、そばにあったコンクリートの壁に顔を向けます。

    「壁に投影するですの」

    「わっ……!?」

    しゅぷーちゃんの両目が映写機のように光り、壁に学園長の上半身が映し出されます。

    背景は学園長室のようです。

    どうやら学園長室にもカメラがあって、しゅぷーちゃんを介して通信、映写をしているようでした。

    「しゅぷーは“歴史の観察者”。ガイド役でもありカメラ役でもあるですの。みんなの活躍はすべて記録しているし、こうして単純に映写機の役割を果たすこともできるですの」

    粗めの解像度で壁に映し出された学園長は言いました。

    『……あれはゲーム世界のNPCだ』

    「ゲーム世界のNPC……ですか?」

    『ああ。おそらく虚霊に操られている。まずいね……』

    「どういうことじゃ? NPCと言ったって、一体どの世界の……」

    すると、プレイヤーさんが苦しげな声で言いました。

    「あれは……アイドルのファンだ」

    「っ……!」

    私は、足下から恐怖が駆け上がってくるのを感じました。

    さっきの人を見た時、どこか懐かしい気がしたのです。

    どこかで彼を見た気がするのです。

    「私……どうしたら……」

    寒くもないのに、体が小刻みに震えます。

    「優愛? 大丈夫ですの?」

    「どうしよう……怖いです……」

    「優愛? ひどく震えておるぞ?」

    「私……たぶん……あの人たちを知ってる……。きっと……知ってます……!」

     

    「……チャン…………」

     

    謎の人型の敵が、そう口にしたのが聞こえました。

    「え?」

    それは人の言葉だとすぐにわかりました。

     

    「……ュア…………チャン…………」

     

    「……ユアチャン………………」

     

    「いや……!!」

    私は震えが止まらなくなりました。

    あの人は、私の名前を呼んでいます。

    そうしている間に、他の虚霊数体が私たちに迫ります。

    「優愛っち! どうしたんすか!?」

    急いで戻ってきた咲ちゃんが、敵を蹴散らしつつ、私を振り返ります。

    だけど虚霊は、勢いを止めることなく、私たちに向かってきます。

    「やだ……いや……!」

    「優愛! 戦意を保て!」

    「優愛っち! 戦闘態勢をとるっす!」

     

    「……ユアチャン…………」

     

    「やめて……やめてっ……!」

    「落ち着いて……!」

    プレイヤーさんが私の肩に手を置いて、気を落ち着けようとしてくれますが、私の震えは止まりません。

    体の芯が凍るような、内臓に氷を詰められたような震えなのです。

    『これはキツいね……。咲! 雛乃! 優愛を守れ!』

    「はいっす! 優愛っち! 大丈夫っすか!?」

    「うん……。ごめんね咲ちゃん……」

    「奴らは何者なんじゃ?」

    雛乃ちゃんの質問に、プレイヤーさんが、ためらいがちに答えます。

    「あれは『少女迷子ストレイガール』のファンだ」

    私は尋ねます。

    「『少女迷子ストレイガール』……?」

    「君がセンターを務めたアイドルユニットだ」

    「私が……センターの……? アイドルユニット……?」

    あれが……アイドルだった私を応援してくれていた人たちだって言うんですか?

    「じゃあどうして……」

    その応援してくれていた人たちが。

    「私たちを襲おうとしているんですか……?」